定年を迎える世代は第二次世界大戦の敗戦混乱期に幼年時代を過ごし、物質の困窮と引き換えに自由と民主主義を夢見ることが出来た。その後馬車馬のように働き、日本国の経済成長に貢献したが、物質の豊潤さと共に精神的な豊かさを喪失してきた。さらに、効率を求めて、自然破壊、文明破壊に加担をしてきた。
ヨーロッパ旅行をすると、その国の文化遺産が良く分かる。イギリスの家は冬の暖房を重視して屋根の上に煙突がたっている。石炭を蓄えるために半地下室を作り、同時に食堂に利用したりする。ドイツの家は急勾配の破風がある屋根で、雪が積もらず、直ちに下に落ちるようになっている。強靭な瓦はドイツ瓦と呼ばれ断熱効果もあり、屋根裏部屋は子ども部屋や寝室に利用されている。スペインの屋根はなだらかであるが、瓦があらゆる方向からの雨を防ぎ、強烈な太陽光線の熱射を防ぐような断熱構造になっている。半円形を組み合わせパテで固めたこのような瓦はスペイン瓦と呼ばれている。開放的な窓からの通風は良く、屋内に入ると真夏の暑さを感じない。
自然が豊かだった幼年時代には、日本瓦にも裏日本や表日本、南や北の地方でそれぞれ特徴のある瓦が文化として残っていた。しかし今では画一化されて地方の特徴などは失われてきている。当時は川原には砂丘が広がり、草原には月見草が咲き、犬は鎖を放して自由について遊びまわって来た。今では護岸工事をして川幅は狭まり、草原は駐車場や住宅が拡大侵食してきている。
定年後に犬でも飼おうかと考える人は多い。犬は常に一緒に生活してこそお互いに親近感が増し、飼い主の感情を驚くほど理解してくれるからだ。特に時間を気にしない生活が始まると、散歩を催促する犬の存在は隠居生活から社会生活へ戻してくれる接点となる。犬を飼うことは失われた自然への回帰かも知れない。あるいは新しいことへの冒険ともなるかも知れない。

では豊かな老後を暮らすためには、どんな犬種を選んだら良いのだろうか。犬には超小型犬から超大型犬までいる。また、犬の基本的性質として、興奮性、活動性、咬む性質、吠える性質、訓練性能、番犬性能の六つの性質がある。まず、姿形よりも犬の性質を分析し、自分達の生活パターンに合う犬種を選ばないと、「こんなはずではなかった」というミスマッチが生じてしまう。
ゴールデン・レトリーバーは訓練性能が良い割りに他の五つの性質が極端に低い。他人や他の犬とも友好的でトラブルを引き起こすことは少ない。孫がよく遊びに来たりする家ではうってつけであるが、泥棒の番などは出来にくい。番犬性能を加味すればラブラドール・レトリーバーが良いが、若い頃は活発すぎるかも知れない。プードルは興奮性や活動性が高いが、訓練性能も高く老人に向く。スタンダード、ミニチュア、トイと3種類あり、大きさは体重で十倍も差がある。だから、大きさを基準に選ぶ場合には、ダックスフンドと同様に選択の幅が広くなる。ダックスフンドではさらに毛の長さが3種類あるので9種類の組み合わせが可能となる。性質は穴熊猟犬なので自立性が高く、したがって訓練性能としては低くなるので、芸を覚えさせたりするのには向かない。このほかに番犬性能の高いウエルシュ・コーギー、飼い主にだけ喜怒哀楽を表現するパグ、感受性や洞察力の鋭いコリーなども候補に挙がるだろう。いずれにしても自分達の生活と犬が暮らす生活の両方を良く考えて選ぶことが肝心であろう。そのために「森林住宅地で飼いたい犬」として、犬種の知識を紹介する企画も併せて連載している。